Wikipediaの本広克行監督の項目にあるパトレイバーについての記述

実写TNGパトレイバーと本広監督

 Wikipedia本広克行監督の項目に以下のような記述があります。

本広の『踊る大捜査線』では、押井が警察内部のドラマを描いた『機動警察パトレイバー』からの影響が随所に認められ、本広自身も本作の文庫版第一巻巻末に寄せたコメントにおいて「踊る大捜査線機動警察パトレイバーに影響を受けた」と告白している。(『キネマ旬報』)。その影響で、2013年に始動したパトレイバー実写化プロジェクトで監督の依頼があり、特撮担当に樋口真嗣、音楽担当に川井憲次というスタッフでミーティングまで行ったものの、メガホンをとるまでには至らなかったという。

 問題はこの後半にある

2013年に始動したパトレイバー実写化プロジェクトで監督の依頼があり、特撮担当に樋口真嗣、音楽担当に川井憲次というスタッフでミーティングまで行ったものの、メガホンをとるまでには至らなかったという。

の部分。これは間違いだと思います。Wikipedia記述の根拠となる情報の出典元として、

上のTNGパトレイバー公式Twitterの投稿が挙げられているのですが、これは文脈の肝心なところが抜けています。

肝心なところ

 TNGパトレイバーの展開時に独占放送をしていたスターチャンネルの企画の中に、このトークイベントを会員制ながらほぼノーカットで動画公開するという物がありました。もうその企画自体終ってしまいサイトも閉鎖されたので、現在はもう見れません。映像ソフトにはダイジェスト版で収録されているので、ノーカット版は闇に葬られたようなもんでしょう。

 TNGパトレイバー劇場長編ディレクターズカットの劇場パンフに、トークイベントの採録があるんですが結構修訂が行われているので、なるべく聞き取れるそのままを書き起してみました、

司会「本広さんいろんな媒体でパトレイバー大好きっておっしゃってますよね?」

本広「はい、もう何度も。本当こう……2001年ぐらい、『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』*1てあるじゃないですか、あの辺で実はパトレイバーの実写化の話が来たんですよ僕んとこ」

司会「ええ?そうなんですか」

本広「特撮監督は樋口真嗣で、音楽は川井さんで、でそこでみんな会ってんすよ1回。FM TOKYOかなんかで、なんか(押井監督の方を伺いながら)5.1chのイベントっすかね?あんときに会って、じゃあ頑張りましょうなんて。パイロットムービーもあるんですよね(押井監督の方を伺う)、あの頃」

司会「へえ」

本広「お台場でレイバーが立って夕日の前に立つ奴と、押井さんのワンちゃんが踏切で待ってて、あれ実は僕らがあのプロジェクトに」

司会「そうだったんですかあれが」

本広「だったのに……」

司会「なのに」

本広「押井さんどう言うことっすか?!本当……おかしいでしょ」

司会「そしてなんか今日はね違う監督が監督した実写版パトレイバートークイベントに呼ばれて」

本広「そう。本当にねえ……もうダンマリですよ(押井監督を指して)」

本広「本当にパトレイバーを作ってるらしいって、もう物凄い僕らの業界では評判になって。本広さんやってるんでしょう?って全員が」

司会「聞く訳ですか?」

本広「全員僕に聞くんですよ。どうなんですか?って、で主役は誰がやってんですか?とか。なんかレイバー千葉の方走ってたらしいですよとか、もう、凄い聞くんすよ」

司会「でも答えられませんよね?」

押井「僕が答えると、だからその、本広くんを監督指名はあったんですよ」

本広「おっ、ちょっと!」

押井「プロデューサーの方で、監督ところで誰にします?っていうさ、シリーズだから3人くらい居ないと回らないから」

本広「はい」

押井「その時に本広くんの名前も確か入っていました」

本広「ちょっと……(落胆)」

押井「いやいやいや、だけど」

本広「何で今!」

押井「ちょっと色々あって、色々あってってか、最初にその、入る時の約束で、演出部を含めて監督は全部自分でやりますからっていう、それを条件に引き受けたんで」

本広「えー」

押井「しょうもない3人*2いるじゃないですか」

本広「しょうもないことはないですけど」

司会「あの、詳しくは第3章のブルーレイのオーディオコメンタリーを聞いて下さい」

本広「めちゃめちゃ面白いっすよ」

押井「あの3人を何とかこう、一人前の監督にしようってことも一つのテーマとしてあったので、今回は若手で行きますっていうさ。しかも全部実写映画上がりで、だからちょっと意外性があるかなっていうさ。本広くんとかもうベテランだから」

本広「全然ですよ」

司会「新人として呼ぶわけに行かないですよね」

本広「いや、まだまだ行けますよ本当、まだまだ」

司会「そうなんですか?(笑)」

本広「まだまだ」

押井「名前はいろいろ挙がったんです。有名なあの人とか」

司会「一応記者がいるので外に出しては行けないことは我慢していただいて(笑)」

押井「いや名前言えば、ああ、あの人っていうね」

本広「えー?」

押井「ただちょっとそれだと、もちろん僕は多分楽出来るなっていうさ思ったんだけど、任せれば全部やってくれるから。だけどちょっと違うことしたかった」

本広「なるほど、監督補佐とか、演出助手でよかったんですけどね」

司会「それこそ難しくないですか?」

本広「いや、押井さんここ押井イズム的にはですね、みたいな。物凄く勉強してるんで押井さんの」

と、ここで話が司会によって変えられるまで、こういった会話が続けられました。

 この会話からも分かるように、本広監督は少なくとも『THE NEXT GENERATION パトレイバー』制作面での関わりがないのはお分かり頂けたと思います。ですから、

2013年に始動したパトレイバー実写化プロジェクトで監督の依頼があり、特撮担当に樋口真嗣、音楽担当に川井憲次というスタッフでミーティングまで行ったものの、メガホンをとるまでには至らなかったという。

とするWikipediaの記述は事実誤認。間違いです。

パイロットムービー 

 本広監督が「僕らがあのプロジェクトに」と言ったのは、1998年にデジタルエンジン研究所で制作された『PATLABOR LIVE ACTION MOVIE』のことでしょう。本広監督が挙げた

  • レイバーが夕日の前に立つ
  • 押井さんのワンちゃんが踏切で待ってる

という二つのシーンがこの『PATLABOR LIVE ACTION MOVIE』と一致します。LIVE ACTION MOVIEの制作は1998年(メカデザインの竹内氏が描いた絵コンテの日付は1998年7月4日)。この映像はプレステのゲームやDVDBOXに収録されています。


PSパトレイバー特典映像

教育テレビの番組でこの映像の一部が流されたは際に押井監督は

  • この映像は正規の発注を受けた物ではなく、スタジオの内部での自主的なテストだった。
  • 街中にレイバーが立っているシーンはやってみたかったことの一つ。
  • ブルーバックを無しにどこまでやれるか。

と言っていました。踏切に架線があるのにレイバー渡れるのか?という話があるんですが、映像を作り上げることを優先したテストであることを考えれば、さして問題ではないでしょう。

PATLABOR GAME EDITION

PATLABOR GAME EDITION

 

 

 

 TOKYO FMだかで5.1chのイベントの際に……という話は、1998年12月にTOKYO FMホールで行われたサウンドリニューアル特別上映会のことではないでしょうか?ただ、この時にこの実写版も上映されています。2001年くらいの時期で他にTOKYO FMと5.1chで引っ掛かるイベントが見つからないし、制作は1998年なので、2001年頃に本広監督に実写化の話が来たというのは、もしかするとこの後に別の実写企画があったのか?とも思うのですが、詳細不明です。もしかしたら本広監督の記憶違い?

 雑誌の本広監督インタビューか何かで、パト実写化について他にも語っているのがあったような気がするのですが、年を食うとパッと思い出せなくて困ります。

 

 どちらにしても、本広監督はTNGパトレイバーに関与していないことだけは確かなので、Wikipediaの情報は間違いでしょう。 

*1:フジテレビで2001年10月から放送のドラマ版で本広氏は演出を担当

*2:辻本、湯浅、田口の3監督