2003年頃にもサンダーバードリメイク話があった
カールトンのリメイク企画
上の記事にもある2015年リブート版の前にも、リメイク版製作が企画されていた事がありました。それは2005年放送を予定し、人形とミニチュア、CGIで表現する予定の作品でした。
この企画は当時サンダーバードの版権を管理していたイギリスのカールトンと言う会社で進行していた企画で、2003年に数分のプロモーション用のパイロット版が作られましたが、会社の合併などにより実現しませんでした。しかし、現在ネット上で製作に関わったスタジオや関係者によって映像や画像が公開されています。
下の動画2つはこのPVの特撮等を担当したAsylumsfxというスタジオのYouTubeチャンネルにアップされている物。
下の動画はジェリー・アンダーソン作品の商品CMなど沢山アップしているアカウントがアップしている動画で、一番上と同じ映像ですが4対3サイズのオリジナル版と思われます。画質も良いです。
Asylumsfxがアップしてるのは4対3サイズ画面の一部を切り取って16対9にしているようです。最後にカールトンの電話番号が出ているので、各社に売り込むためにに配布した映像の可能性が高いのではないでしょうか。
キャラクターやメカのデザインについて賛否あるでしょうが、この映像がパイロット版であると言う事を考えると、もしリメイクが実現したとしてもこのままだったかどうかは不明です。
表情についてはスーパーマリオネーション版では、普通の表情、笑った表情、険しい表情などの頭部が用意され、カットごとに顔をすり替えて変化させていました。しかし上の映像を見て分かる通り、このパイロット版では1つのカットの中でシームレスに表情の変化が可能になっています。これは顔の表皮を樹脂で作成し、ワイヤーなどで変化させる手法が取られています。スーパーマリオネーション版の様に表情が固定されていないので、柔軟な表情表現が可能になっているわけです。まぁこれはパイロット版なので、表情を出すタイミングや具合に不慣れなところもあるんでしょうが、実際にシリーズとして作られていたら、オペレーターが場数を踏めば良くなっていく形でしょう。
キャラクターとメカニック
スタッフだった人のブログに、この時デザインされたサンダーバード2号の画像や、キャラクター(五男・アラン)の顔の彫刻画像が公開されていたのですが、ブログが移転した事もあってか、現在は見れなくなっています。
オリジナルのサンダーバード2号をデザインしたデレク・メディングス特撮監督が生前に受けたインタビューで、「今デザインし直すなら2号のエアインテークを大きくする」と語っていたのですが、その発言と一致するデザインです。これをデザインした人はメディングス特撮監督の発言を知っていたのでしょうか?
作りかけのアラン。髪型こそ変わっていますが、オリジナルの造形がかなり残っています。
2003年当時の人形操演技術とデジタル映像技術
2003年の技術では、ここまで人形にアクションをさせる事が可能であった。と言う点に注目してみます。
映像を見ると分かる様に、頭上からの吊り人形ではなく、支持棒による操演が行われています。また歩行シーンも自然で、走るシーンまであります。後述する制作スタジオのサイトを見ると、足にサーボモーターが内蔵されおり、電気的な仕掛けで足の動きを付けているようです。支持棒はデジタル映像技術で消しているのだと推測されます。
こう言った方法を採る事によって、吊り人形では実現出来なかった、体全体を映した状態で扉の枠を越える動作を行える様になっているのが分かります。また、撮影風景を見ると、その場で発せられたセリフにリアルタイムで反応して、人形の口を開閉させる事ができたようです。
また、1965年版では口の開閉は下唇の動作だけでしたが、2003年では顔の表皮を樹脂で作る事が可能になっており、内部に仕込まれたアゴ骨をモーターで動かし、その動きにあわせて表皮が伸縮する表現が可能になっていたり、同じく樹脂素材使用により、眉をひそめたり、手の握りも表現可能になっています。
その制作過程や撮影風景の画像等が下のパイロット版制作スタジオのサイトで公開されているので、ぜひご覧下さい(サイトのリニューアルによって見れなくなってしまったようです)。
THUNDERBIRDS PILOT | Asylum Models and Effects
1965年版は材質の制限がありつつも、色々な方法でリアルな表現を求めていたことはスタッフのインタビュー等で明らかになっています。
その例としては、人形が歩けない・歩かせても不自然なため、キャラクターをホバークラフトに乗せて移動させるようにしたり(キャラクターが移動するのに座った状態が多いのもこの理由)、上半身だけの人形を使い下半身を映さない様にして扉を越える描写(ワイヤーで吊る方法だとドアの枠が邪魔なため、ドアは開いているが部屋に入って来ない)をしたり、人形だとレバーの操作ぐらいしか出来ないので、苦肉の策として人間の手でスイッチなどを操作するという表現を差し込んでいました。
1965年版は人形用のセットの上に足場を組み、そこで人形師が人形を操っていました。現在これをやるとすると自社スタジオを持っていない場合、利用するスタジオの選定にも一定のハードルが出来ますし、人手的にもかなり手間がかかる事が予想されます。
上からワイヤーで操作して人形に演じさせるには、それなりの技術が必要なのは映画『チームアメリカ』を見れば素人でも分かります。『チームアメリカ』は、人形である事も含んでお馬鹿な演出をしているので、動きがかなり雑ということもあるんですが……
現在は……
2015年のサンダーバードも、こういう感じで人形でやればいいのにという意見もあるでしょう。1965年版サンダーバードは基本的に1つの人形を一人で操作していましたが、上の動画をみても分かるように、2003年のこの方式だと一人の人形に複数人のスタッフが付いて操作することになるので、様々な面で負担になる事は想像出来ます。
アンダーソンの製作プロダクションで働いていたスタッフは最盛期には250人にものぼり、サンダーバード1話分の製作費は当時の金額で2千万円とも言われる巨額だったと言われています。サンダーバード以後も何本かスーパーマリオネーションの番組を作りますが、この規模のスタジオ維持にはサンダーバードのようなヒット作が必要でしたが、最終的には色々あって人形部門は解散する事になります。
ジェリー・アンダーソンの息子が、人形を使った作品を製作(人形特撮版『FIRESTORM』)しようと各方面にアプローチしたそうですが、どこでも「CGIの方が簡単ではないか?」という、似たような反応が返ってきて協力してくれるスポンサーは見つからなかったたそうです。結局、クラウドファンディングで資金集めをするに至っています。
今現在、あやつり人形師がいない訳ではないと思いますが、操作に一定のクオリティを保てる人形師を多数集めたり教育するのは、費用対効果としてやはりCGに差を付けられるという判断なのでしょう。
当時の製作状況を再現し、人形で新しいエピソードを製作するプロジェクトも開始され、撮影も終わりポストプロダクションの段階になっています。数年前「特撮博物館」で上映された、失われつつある特殊効果技術を再現した『巨神兵東京に現わる』に似たようなコンセプトでもあると思うのですが、こちらは資金をクラウドファンディングで集めています。なので、ファンディング参加者以外がすぐに見る事は出来ないみたいです。
表現方法
プロデューサーのジェリー・アンダーソンは、『サンダーバード』以降の作品
- 『キャプテン・スカーレット』では、人間に近い頭身の人形を採用。
- 『ロンドン司令X』では、人形と人間を使ってストーリーを構成。
- 『謎の円盤UFO』では、遂に人間が演じるライブアクション作品に。
- 『地球防衛軍テラホークス』では、口の開閉を手で行うパペットを採用。
- 『新キャプテン・スカーレット』では、フルCGアニメ。
と、数々の表現方法を試していました。
2003年以降、何度かジェリー・アンダーソンによって「リメイク企画が進行している」、「企画を承認した」と言うような発言が数回あったのですが、ついに実現する2015年リメイク版を見る事無く、2012年12月に他界しました。
2015年リメイク版『サンダーバード』はミニチュアとCGIという表現方法と言う事で、人形を期待していた方々の反応は良くないようですが、表情の変化がカット毎でしか表現出来なかったり、動きに制限がかなりある人形という制作環境の中で、様々な方法でリアリティある表現を模索してきた(中には、キャプテン・スカーレットのようなリアルなプロポーション化に反対し、製作から離脱したスタッフもいそうですが)、製作陣たちの志をある意味で継承していると言っても良いのではないでしょうか?
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