2015年11月23日(月・祝)午後10時55分~11時20分・NHK総合で、サンダーバードのスペシャル番組が放送予定になっていますが、番組説明には
「僕らのサンダーバード」
50年ぶりにCGアニメーションとしてよみがえった「サンダーバード」の魅力を、我こそは“真のサンダーバード・ファン”を自任する各界の著名人が登場して熱く語り合います!
オリジナル版と現在放送中の新シリーズを比較しながらマニアックなトークを展開! メカやキャラクターの話はもちろん、ミニチュアとCGを組み合わせてつくる新作の制作舞台裏やスペシャルゲストからのメッセージも飛び出す見応え聞き応え満点の、25分スペシャルです。
とあるので、NHKが比較するならこっちもしようと言う事で。
キャラクターについては、今のところ国内で出版された雑誌やwebサイトでは説明が非常に簡単に済ませられており、キャラクターの人柄を知る情報自体が少ないので触れるのもどうかと思うので辞めておきます。
イギリスでは『THUNDERBiRDS ARE GO』の月刊誌や恒例のThunderbirds年鑑が出版されており、「トレーシー兄弟の誰か一人について、他の兄弟たちが一言語る」コーナーがあったりして、人柄を知るのに役立ちそうなのがあるのですが、日本ではまだ見た事がありません。今後出版される本にそう言ったものが載ると良いのですが……
そんなわけで、おそらくスペシャル番組ではそこまで深く取り上げないであろう、特殊効果・視覚効果の事をいくつか書いてみようと思います。
1965年シリーズを見ていると、比較ではどうしても新シリーズの粗探しになりがちですが、そうではなく比較して違いから読み取れるであろう「特撮パートの方針・コンセプト」みたいな物を見つけ出したいところです。
ミニチュア
2016年10月追記
イギリスで2016年10月22日から放送開始されるシーズン2では、サンダーバード号のミニチュアや実際の爆破演出があるそうです。
ーーーここまで追記ーーー
放送ではミニチュアとCGを組み合わせた新シリーズの舞台裏を取り上げるみたいですが、この撮影法についてもう少し踏み込んだ所を取り上げてみます。
まず、この新シリーズのどこからどこまでがCGなのか、ミニチュアなのか。登場メカのうちサンダーバード各機はCGという発表ですが、ゲストメカ(第1話の海底研究所など)やフッドの船などで模型が使われています。
一部の乗り物内部(第5話 「消えたファイアーフラッシュ」のファイアーフラッシュ客室など)や、風景や建物内部(トレーシーアイランドのラウンジなど)にミニチュアが使われています。これはこの文章の下にある動画で見る事が出来ます。
宇宙空間については、第3話「スペース・レース」などを見ると、フルCGとみて良さそうです(ちなみにこの話の地上シーン、ロンドンの資料保管施設でミニチュアが使われています)。惑星の地表というか表面が出るエピソードがありますが、それはミニチュアで作られています。
↓ミニチュア製作をしているウェタ・ワークショップが公開している動画。
↓製作に加わっているプケコ・ピクチャーズとウェタ・ワークショップがあるニュージーランドの地元テレビ局が公開している動画。
1965年シリーズでは人形の大きさが人間の3分の1程度だったので、建物内部・乗り物内部はそれに合わせて作られていた訳ですが、上の動画を見ると今回の新シリーズではそれよりも小さくなっています。
しかし50年の間に登場した新素材や精度の高い工作機械のお陰か、小さくなっているのに相変わらず緻密に出来ています。更に既製品からのパーツ流用がありますが、これは人形劇版でも積極的に行われていた手法です。
追記
撮影終了後に行われているスタジオツアーの様子や、プロデューサーのリチャード・テイラー氏の解説によるセットの案内の動画も公開されています。
短縮版
Weta Workshop's Thunderbirds Are Go Behind-The-Scenes Experience! - YouTube
ーーーここまで追記ーーー
撮影
ミニチュア特撮の撮影技法として「パンフォーカス」と「ハイスピード撮影」というものがあります。
パンフォーカス
「パンフォーカス」(この言葉は和製英語らしいですが)というのは、近くから遠くまでピントが合っている状態の事です。細かい説明は省きますが、ミニチュア特撮ではパンフォーカスの状態にすることが基本とされています。
これはレンズの性質によっても多少変わりますが、小さくて近いものを撮るとごく狭い範囲にしかピントが合わないという原則の逆手を取り、全体にピントが合うようにすることで、遠くの景色のように思わせるトリックなのです。
出典:大人の科学マガジン 特集 ミニチュア特撮の世界
現代だとニュース映像とかテレビの映像(ドラマとかは除く)を撮っているビデオカメラがパンフォーカスで撮影していて、普段それで事件や事故といった出来事の様子を見慣れている、という側面もありそうな気も。
ハイスピード撮影
「ハイスピード撮影」とは高速度撮影とも呼ばれるものです。Wikipediaの説明を引用すると
通常、映画では1秒間に24コマ撮影し、ビデオカメラ等では1秒間に30コマの撮影が一般的である。通常のコマ数で撮影し、それをスロー再生した場合はカクカクした映像となるが、撮影時により多くのコマを撮影し、それをスロー再生することで、滑らかにスローモーション化した動画を得ることができる。
これを特撮で利用する意味ですが、これもWikipediaから引用すると
50階建てのビルディングが崩壊するシーンを1メートルのミニチュアモデルを使って撮影したとする。いかに外観の優れたミニチュアモデルであっても、重力はごまかすことが出来ず、実際より早く崩壊してしまうビルディングは、それが縮小模型であることを観客に容易に悟られてしまう。
そのような事態を防ぐため、ミニチュア撮影では、模型のサイズをより大きく見せるため、高速度撮影が利用されることが多い。高速度撮影された映像はスローモーションになるため、たとえばトレーラーがビルに突撃して炎上する映像では、破壊されたトレーラーとビルの破片は非常にゆっくりと地上に落下していく。
ということです。ミニチュアを使った爆破・崩壊シーンでは必須の技術で、戦争物の作品やゴジラやウルトラマンといった巨大生物が出る作品、戦隊ヒーローのロボシーンなどで使われており、特殊撮影で代表的な技術です。
1965年シリーズ
『サンダーバード』でこの二つの要素がどうなっているのかですが、1965年シリーズでは基本通りに使われていました。
パンフォーカス
上の画像は1965年シリーズ第1話のカット(LDからコピーした物なのであまり画質が良くないのは勘弁)。手前の地面がややボケていますが、出来る限りパンフォーカスにしようとしています。なので奥の建物はボケておらず窓の格子も見えます。
初期の撮影スタジオは狭い事もあって大セットを組む事が出来ず、基本的にローアングルで撮影されていました。そして出来る限りパンフォーカスになるよう照明や構図設計され、これが視聴者がその場にいた人間の見た目やカメラアングルであるかのように受け入れられ、リアリティの一環ともなりました。
ハイスピード撮影
1965年シリーズの『サンダーバード』では、爆破、メカが出てくるシーンや海の波があるシーン、水中を人形が泳ぐシーンなど色々な所で使われています。
新シリーズ
パンフォーカス
シーズン1の13話までの話になりますが、ミニチュア特撮パートでのパンフォーカス統一はしていないようで、同じシーンの中でもカットによってバラバラです。
↓基地発進前の2号がコンテナを搭載するカットではパンフォーカスになっています。
↑この引きの構図では上のよりはボケは少ないようです。
↑第7話のこのカットは多分全長25m前後ある1号が、手前から奥までピントが合っています。
↑第5話の冒頭ですが、機首の方から撮影した旅客機の画像を検索して見ると分かりますが、手前も奥もピントが合っているのがほとんどです。ボケてるとしたら、ジェットエンジンの排熱で陽炎がたって一部ボケるとか、機体より遠くの方が霞んでボケてるくらいでしょう。
ミニチュア特撮では本来大きい物を縮小してミニチュアにしているので、ただでさえ大きく見せる必要があり、さらに人間の見た目を再現するため、可能な限り全域でピントが合うようにするのですが、新シリーズではあえて一部のピントをボカす傾向のようです。そもそも上のTB1、2やファイアーフラッシュもCGでピントの合う範囲はいかようにでも出来るはずですし。
デジタルカメラなどにジオラマ・ミニチュアなるモードがありますが、あれは遠い所と近い所をボカした画像加工してミニチュアっぽくしてしまうものですが、 逆を言えば遠近にもピントが合っていればミニチュアっぽく見えないわけですが(実際にはミニチュアの細部が大ざっぱだと明らかに模型に見えたりするうえ、照明の具合なども関係するらしいのですが)、新シリーズはあえてそれを外している節があります。
今の所、スタッフインタビュー等でこのボケ味について語られているのを見た事がないので断言は出来ないのですが、おそらくボカさない状態で作った場合、番組そのものがフルCGと勘違いされる(今でも勘違いしている人がいますが)ので、どことなくミニチュア感を出す為に意図的に行っているのではないでしょうか?
それ以外にも映画などでよく見かける、注目させたい部分を浮き立たせる効果のような演出面でボカしてるのもあるのでしょうが、どうも話数を経てくると多少ボカし方や具合が変わって来ている気もします。この辺は残りの第14〜26話で変化があるのか、気になる所です。
追記
第14話以降の一部シーンが、YouTubeのThunderbirds Are Go公式チャンネルで地域視聴制限がかからない状態で公開されています。これを見ると、画面の遠近のボカシ度もそれほど強調されておらず、ストーリーやメカの見せ方も第13話までとは違ったものに感じられます。
イギリスで6月に放送された第13話までのノウハウや、その他のフィードバックによって、第14話(10月放送再開)以降のストーリーや絵作りに変化が出たのでしょうか?
ーーーここまで追記ーーー
ハイスピード撮影
ハイスピード撮影に関しては、13話までは崩壊シーンなどが多いとは言えないので、使われている所が限定的です。第1話での海底研究所の崩落シーンや、第2話でのソーラーコレクターの崩壊シーンなどで使われているようです。
炎
またサンダーバードから噴射する炎がミニチュア撮影チックで、いかにも小さい炎のように、炎の先がヒョロヒョロと揺らめくよう作られています。
第4話で1号が現場着陸する際の噴射炎が分かりやすいです。また、着陸も1965年シリーズのように吊って操作しているかのようで「ミニチュアに見えるようにする事」が方針としてあるとしか思えません。
これは1965年シリーズから見れば真逆の方針で、ミニチュア特撮の基本を外していますが、初放送後の反応を見るとサンダーバードのミニチュア感を好む方たちには、この方針はうまく届いているようですね。
空間の話
個人的に気になるのは、空間の広がりです。1965年はスタジオが狭いこともあってか、構図を工夫したり、強制遠近法を駆使したり、背景に絵を描いたりして空間の広がりを出していたのですが、新シリーズはあまり広がりや奥行きを感じません。
上にある2号が着陸してコンテナを降ろしている画像や、下にある滑走路の画像ですが、どうもポッカリ空間が空いている感じがしませんか?
新シリーズ第5話は空間の事を見て取るのに最適です。以下の俯瞰画像を見てみると
↑とても広いゴビ砂漠にある空港(宇宙港跡)なのが分かるのですが……
↓これが地面近辺からのアングルになると……この空港が小高い丘とか断崖の上にあるなら分かりますが、本編を見てもそのような様子はありません。
↓多少低い俯瞰はこんな感じ
画像のような砂漠のシチュエーションは1965年シリーズでも数回ありましたが、もっと奥行きを感じられるセットでした。
↑このようにローアングルでも遠くにある砂丘を配置しています。背景にポッカリ空間が空いて、いかにも平面にセットを組んだという印象を持たれないよう、そして本当は狭いセットがそれ以上に広い空間であることを感じさせるよう、構図やミニチュアセットの配置にもこだわりがあった事が伺えます。
ただ、全話全シーンでそうだったのかと言うと違うのですが、それでも空間の狭さをあまり意識させないよう起伏を持たせたりしていたのは確かです。
追記
公式が公開している動画(日本未放送分)のを見る限り、話数が経つにつれ上記の俯瞰シーンのようなCGとミニチュアで空間の描写に極端な差がある、というのが減っているみたいです。
ーーーここまで追記ーーー
マットペイント
特にセットスペースの奥行き不足から、背景に広がりを出す絵が用いられ、カメラのアングルとミニチュアの配置、背景の構図をうまく合わせて効果的に使われていました。
↑「ジェット"モグラ"号の活躍」この画面の中央部に近い樹木はおそらくミニチュアで、それより下はおそらくガラスに描かれたマットペイント(絵)だと思います。煙が出ている穴の少し上から向うの砂丘が背景画だと思われます。HD版だとその辺がよく見て取れます。
↑「原子炉の危機」この画面の手前のサンドジープはもちろんミニチュアで、下の方に見えるプラントもミニチュア、プラントの向うはに広がる荒野や山脈が背景画だと思われます。
このように火薬や爆破技術、ミニチュアの操演や大きさだけでなく、構図設計やアングルにも手間のかかる事をして、空間の広がり・奥行きをコントロールしていたわけです。
当時の製作体制や忙しさから、メディングス特撮監督の意向で特撮班にもセカンドユニットが作られ、さらに芸術系の学校を卒業したばかりの若者をマットペインターやモデルメーカーとして雇っていたそうですが、上で書いたようなテクニックを駆使出来るのも、デレク・メディングス特撮監督は元々マットペインター志望だったということも関係しているのかもしれません。メディングス特撮監督はイギリス特撮界の第一人者レス・ボウイの元で働いていたそうで(マットペインターでの出番はあまりなかったらしいですが)、このときに得た知識が活かされているのではないでしょうか。
俯瞰と地面や樹木
映画版のサンダーバード(人間版じゃない方)では、スタジオが拡張され広くなったこともあってか俯瞰セットのシーンがあります。このシーンで注目なのは樹木や地面です。樹木だけでなく地面の色にムラがあり自然に見えます。
↓劇場版サンダーバード6号のカット
新シリーズでは
高度が高めの時はいいのですが、場合によってはミニチュアが随分あっさり単調に作られている事も。
走行シーン
自動車などが走るシーンの比較だと、1965年シリーズはやはりローアングルで固定カメラが多く、さらにベルトコンベアーやルームランナーのように回る道路の上にミニチュアの自動車を置き、回る背景と組み合わせての撮影が多いです。
↓「にせ者にご注意」のカット
↓劇場版サンダーバード6号のカット
↓「死の大金庫」のカット
↑ベルトコンベアーのように回る道路に自動車のミニチュアを走らせています。背景はベルトコンベアーを90度立てたようなロールに、道路ぎわの樹木などを描いたものを回してスピード感を出しています。
↓新シリーズでは走行する自動車に追従するカメラアングル。
普通に走っているシーンでは背景の作り込みが単調に見えますが、追跡したりされたりするようなシーンでは目まぐるしくカットが変わるのと、車にピントが合って背景はほとんどボケているので、あまり気にならないかも?
しかし、道路周辺の作り込みの差は顕著です。ちなみに1965年シリーズのデレク・メディングス特撮監督は、製作当時「樹木の葉が緑色のカーテンを被っているように見える」と気にしていたそうですが、新シリーズよりもリアリティはありますよね。
実景にCGのキャラクターやメカを合わせるなど手間のかかる事をしているので、CGが簡単に出来るとか、手間がかかってないとか言う人と同じ事を言うつもりは全くありません。
やはり比較すると「こういう所にも気を使って欲しいなあ」と思ったりするのですが、これがミニチュアを使う上でのクォリティコントロールの結果であれば、新シリーズは“ミニチュアに見えるよう”に作られているという印象が強くなります。
ミニチュア制作がウェタ・ワークショップなので、やろうと思えば実景と見間違うようなミニチュアが作られるはずです。しかし、それをやらないのは予算がどうたらとかは関係なく、ファンがサンダーバードの重要な要素や印象に残るポイントである「スーパーマリオネーションのパペットが、ドールハウスを豪華にしたような世界に存在する」ことや「箱庭のような風景」といったポイントを、新シリーズでも活かしているのをアピールするためなのかもしれませんね。
このあたりの事を製作者達に尋ねるインタビューとか読みたいんですがねえ。
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